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Honey・Apple

一次創作メインのイラスト・小説ブログ。(現在企画始動中) 小説の感想等、お気軽にコメントください^^

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2013.01.20 Sun 18:31
 追記より本文です。
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 夕暮れの赤が沈んだその街は、訪れた夜に様々な灯りをともした。月と共に、星のように、その灯りは優しく街を照らす。

 「優しい夢だ」

 ぽつり。散りばめられた淡い光の中で、一人の少年が呟きを落とした。


 第一章:到着


 ずっと先まで続くレンガ道を歩いていた少年は、すぐ傍にたたずむ一軒の店に目を止めた。寂れた小さな店だが、扉の横には古そうなランタンが淡い光をともしている。どうやら営業はしているらしい。
 がらんがらん、と大きなドアベルを鳴らして入れば、中は落ち着いた雰囲気の酒場のようだった。古い内装をあえてそのまま残したのだろう。店の中央には太い木造の柱がむき出しになっていて、その周りを囲うようにテーブル台がつけられている。他に四人掛けのテーブルが2つと、奥には短い三人掛けのバーカウンター。
 今は少年の他に客はいない。
 店の様子を見回しているとバーカウンターの向こうでグラスを磨いていた男と目があった。
 「いらっしゃい」
 そう言って微笑んだ彼の目尻にくしゃりとシワがよった。白髪混じりの髪にきっちりと着込んだバーテン服がよく似合う。40代半ばほどの男だ。
 こんばんは、と挨拶して少年はバーカウンターに腰を掛けた。
 「いい夜だと思っていたんだよ。まさかこんなに可愛いお客さんが来るとは思わなかったがね」
 男は少年の前に新しいグラスを置くと、後ろの棚からボトルを取り出してそこへ注いだ。
 ぷくぷくと浮かんでは消える気泡が店内の薄暗い照明を映して、どこか幻想的な色を見せる。
 「あいにくソフトドリンクはこれしかなくてね」
 「いえ、いただきます」
 本当はお酒を飲める年齢はとうに過ぎているのだけれど。そう言ってもきっと信じてはもらえないだろう、と少年は思った。それは仕方のない話だし、もう慣れてしまったことだった。
 しばらく見つめていただけのグラスを傾けて、一口。
 ほのかに甘い果実の風味が鼻をくすぐった。爽やかで、飲みやすい。
 「とても美味しいです」
 素直にそう感想をこぼせば、バーテンダーの男は嬉しそうに微笑んだ。
 「ところで坊や、あんた旅人かい?」
 カウンターの横に置かれた大きな荷物を横目で見ながら、男は訊ねた。少年はこくりと頷く。
 「西の国から来ました」
 「ほぅ、西か。そりゃあんた、険しい道のりだったろうに。お供は今どこにいるんだい?」
 「僕一人で来ました。仲間とはこれから町外れで合流する予定ですので」
 何でもないように言うその少年の返事に、男はひどく驚いた様子で顔を上げた。グラスを磨く手が止まる。
 「馬鹿言っちゃいけないよ。あそこは死の抜け道と呼ばれている区域だ。子ども一人じゃ悪夢に呑み込まれちまう」
 必死な形相でそう言う男を見て、少年は思わずくつくつと喉を鳴らした。そんな少年の様子に男はまた驚いたが、今度は安心したような、しかし呆れにも似たため息をふっともらした。
 「あまり大人をからかっちゃいけないよ坊や」
 「すみません」
 「いや、いや、いいんだ。こんな老いぼれにはお客との会話ぐらいしかもう楽しみが残っちゃいないからね。冗談の一つや二つ、話のスパイスに丁度いいもんさ」
 男は笑うと、再びグラス磨きを始めた。
 しばらくして全てのグラスを磨き終えると、それらを満足そうに眺めながら一つずつ棚に戻していく。一つ、二つと数えるように片付け、とうとう最後の一つを仕舞い終えると、ちょうど思い出したように男は少年を振り返った。
 「そうだ、坊やにぜひ見せたいものがあるんだが…」
 「僕にですか?」
 「あぁ。見せると言うよりは聴かせると言った方が正しいかな」
 そう言って男は店の奥に姿を消したかと思うと、古いランタンを持って戻ってきた。店の外にあるものとよく似ているが、こちらの方が装飾が凝っている。
 「常連の客には聴かせることもあるんだがね。たまには初めての人にも聴いてもらわないと腕が鈍ってしまいそうだ」
 ははは、と愉快そうに笑う男はどうやらとてもご機嫌な様子だった。
 ランタンを大切そうにそっとカウンターに置き、手を添える。男は目を閉じてすうっと息を吸った。グラスの泡が揺らめく。
 少年が耳を澄ますと、ランタンからメロディーが流れ始めた。それはゆったりとしたワルツのようで、どこか懐かしい気分にさせる。聴いたことのない旋律のはずなのに、それはすっと心に馴染んでいくようだった。ピアノのような、オルゴールのような、そんな優しく心地よい音。
 やがて、潮が引くように静かな余韻を引いてメロディーが鳴り止んだ。
 「…驚きました。そのお歳で、あなたはまだ素敵な夢をお持ちなのですね」
 少年は感嘆のため息をもらす。
 「嬉しいよ、ありがとう。今の時代、ここまで夢を持ち続けるやつは珍しいだろう?」
 男は言った。世界はもっと夢を大事にするべきだと。
 少年はその通りだと思った。
 「最近は夢をただの燃料としか考えない人も多くいます。その考えはやがて夢を枯渇させる。だから人々はランタンに光を灯すことしかできなくなるんです。夢は希望です。だからあなたは大事にしてください、その夢を」
 少年はマントの下から小瓶を取り出してカウンターに置いた。
 「お代のかわりです。どうか受け取ってください」
 男は小瓶を手に取りまじまじと眺めた。最初は何かわからない様子だったが、すぐにはっと顔を上げた。
 「こ、これは夢の雫じゃないか!坊や、あんたは一体…」
 「ただの旅人ですよ」
 にこりと笑って少年はその店を去っていった。
 夜はまだ、始まったばかり。

 少年は目的地へと足を進めた。時間まではまだ余裕があるものの、随分と寄り道をしてしまったと反省する。
 「あぁでも、あのバーテンダーと出会えたのはいい収穫だった」
 少年は笑った。
 この世界は人々の夢を原動力とした機械が発達している。この道を照らす外灯も、店先のランタンも、人を乗せる機関車も、夢を燃料として光を灯し、動いているのだ。もちろん人の夢にはそれぞれ個性がある。夢によって灯す光の色も、燃料としての精度も違う。しかしその個性は、今の時代では社会的な優劣として捉えられることが多くなってしまった。人々は自分自身の価値を、自分の夢の“燃料としての精度の善し悪し"に置き換えてしまったのだ。なんて愚かなことか。
 そんな今の社会の中で、あのバーテンダーのように夢を燃料以外のものに変換できる者は数少ない。ランタンは元々、人々の心に光を与えるために開発された機械だった。
 ランタンの開発された当初、およそ200年前のことになる。それは夢を具現化する装置として世に広まった。ランタンに触れ夢を吹き込むと、様々な夢の形が現れると言うのだ。ある者は音楽であったり、ある者は香りであったり、またある者は風景であったり、人々の夢は生活を明るくさせた。ところがその数年後、ランタンの技術が機械工業・商業に応用され、夢を燃料として動く機械が発明されることとなる。それがすべての始まりだった。
 それまで主流だった蒸気機関の資源である「石炭」と、それに代わる新しい資源である「夢」。半永久的で低コスト、環境汚染の心配もないとなれば、普及なんてあっという間だ。すぐに全世界に広まったこの機械は、大きな社会変化をもらたした。燃料としての精度が高い夢、それを持つ者を優先して雇用するような会社が目立つようになったのだ。こうして今の「精度主義」の社会が形成されていった。少年に言わせれば、それは「腐った世界」だ。
 「それでもまだ、世界は腐りきってはいないってことかな」
 少年はひとりごちた。これから待つ仕事に嫌気を刺しながらも、希望を持って。


 第一章、完。
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